人気ブログランキング | 話題のタグを見る

迷宮のアリアドネ


ゆきのブログです。読んだ本のこと、日々の生活で少し思ったこと、すごく思ったことなど気ままに書いてます。
by ariadne-dream
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
カテゴリ
以前の記事
ライフログ
検索
その他のジャンル
ブログパーツ
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧

加納朋子『掌の中の小鳥』

ほんの少し角度を変えてみるだけで、見えてくるものがある。
ある人にとっては謎なものが、ある人にとっては謎でもなんでもない。

日常で出会った不思議な出来事というものの謎解きという形で進んでいく ミステリーなんだけど、一般的なミステリーのように非日常的な「事件」がおきるわけではない。
でも粋で心温まるとても素敵なお話です。

ひょんなことで出会った彼と彼女。
彼女の過去の謎を、名探偵さながら鮮やかに解いてみせる彼。
しかし、過去の女性たちが彼に残していった謎となると、からっきしの駄目男。
そんな彼には現在の彼女の<女心>などというものがわかるわけもなく。。。
<エッグスタンド>の謎めいた女性バーテンダーの泉さんが今度は、彼の為に探偵役をしてくれる。

あの時もう一歩踏み込んでみたならば、あの時黒じゃなくて白がでていたら、 今とはまったく違った景色の中で生きていたかもしれない。 そんな過去の一つや二つ、誰しも身に覚えがあるはず。
自分の中には死角がたくさんあって、誰か別の人から説明されなくては なんともわからない<謎>というものがたくさんある。

お話の最初と最後に、 タイトルにつながる賢者の話がでてくる。 なんでもわかる賢者をだしぬいてやろうと考えた少年が 手の中に小鳥をしのばせて賢者に聞く。
「手の中の鳥は生きているか、死んでいるか?」
賢者が「生きている」と答えれば即座に握りつぶして殺せばいい。
「死んでいる」と答えれば手を放して飛び立たせてやればいい。
しかし「幼きものよ。その答えは汝の掌の中にある」というのが賢者の答え。

さて、その幼い、いきがった少年はどうするのでしょうか?

手の中の小鳥を、死ぬも生かすも自分次第。
それぞれが過去に何度か小鳥を潰したことがあって、そんな切なくほろ苦い過去が、謎解きをすることで、徐々に浮かび上がってきます。
でも、主人公の彼と彼女を始め登場人物たちはみんな、こんどこそ小鳥を空へ羽ばたかせようと、手の中にいる小鳥をやさしい眼差しで眺めています。
握りつぶす事は、少し心を凍らせれば簡単にできるけれど今度こそこの儚い自分の掌の中にいる小さな小鳥を生かそうと、自らの幼い虚栄心を剥ぎ取って、ちょっぴり見苦しいかもしれないけれど、等身大の自分で人生に向き合います。
だからこそ、みんなとても魅力的であたたかい。

一見ミステリアスでドラマチックに見える出来事も、 謎をといていけば、そこに残るものは少し切ないものだったり、かわいらしいものだったり。
また、日常のささいな出来事や、淡々と生きているように見える人の中にも、沢山のドラマに彩られていて、退屈な人生なんて一つもない。
もし、小鳥を潰してしまいさえしなければ、ね。

by ariadne-dream | 2006-01-27 23:17 | 読んだ本
<< 今年の花 安房直子『うぐいす』 >>